フィリピン人介護職にみる日本語
長年外国人の介護資格取得支援に携わり、現在は在日フィリピン人介護職の人たちに介護現場で必要な日本語を教えたり、介護記録の書き方や介護福祉士国家試験対策を指導しています。そんな中で大きな問題だと感じるのは、彼らは会話以外の読み書きにおいて他の外国人と比べ、かなり劣る傾向にある点です。
その日本在留期間が10~20年前後あっても、日本語の読み書きが出来ない人が多い原因は何だと思いますか。
在日フィリピン人の日本語習得における問題点
原因は以下のことが考えられます。
(1) 母国でフィリピン語(住んでいる地域によってタガログ語、セブ語等異なる170ぐらいの言語があり、)と英語を使用しているため、3ヶ国語目(タガログ語圏以外の人は4ヶ国語目?)を習得するのが他の外国人に比べて容易ではないはず。(日本人で3ヶ国語を操る人がどれだけいるかを考えれば容易に想像できます。)
(2) 表情やジェスチャーといったボディランゲージが得意なこと。
(3) 多くのフィリピン人は耳から聞こえる音をそのままローマ字やひらがなに書く傾向が強く、誤った表記のまま覚えてしまう人が多い。
(4) 母国の地方によっては、母音が異なるためか、「イ」と「ウ」や「ウ」と「オ」など、正しく聞こえてはいるが、発音する際に異なる音になり、それがそのまま書き言葉となって表れる人もかなりいる。
(5) フィリピン語や英語が日本語の文法と主語/動詞の順番など、かなり異なるため、習得が難しい。
(6) 日本語の助詞がかなり複雑であるため、助詞の使い方を習得するのは至難の技である。(助詞の使い方を誤ると意味が異なり、現場ではリスクになりうる。)
(7) 漢字については、ローマ字を使う外国人にとって馴染みづらく、習得が難しい。
(8) 配偶者など周りの人間に頼れば、日常生活にあまり支障を感じていない人が多く、日本語を基礎からきちんと学んだ経験のない人が多い。
(9) 他人から注意を受けることを極端に嫌う傾向があるため、日本語の間違いを指摘される機会が少なくなり、間違いに気づかないままになる人が多い。
外国人介護職に対する日本語指導のポイント
そこで、在日フィリピン人介護職に対する日本語指導を検討されている方には次のポイントをアドバイスしたい。
(1) 発音どおりのひらがなとカタカナをきれいに書けるように訓練。
(2) 小学1年生の漢字から3年生程度の漢字または日本語検定N4に必要な漢字を、繰り返し書いて覚える訓練。
(3) 介護現場で使用する言葉や表現をシーン設定の中で覚える。
(4) 会話時のていねい語と記録時の簡潔表現の違いを学習。
(5) 申し送り内容を聞いてメモをとる訓練。英語やローマ字は厳禁とする。(ローマ字でメモを取り続けると、どうしても母国語文化での思考回路から抜け出せず、日本語習得が遅くなる。)。
(6) 自分でとったメモを見ながら、ポイントを押さえた口頭申し送りの練習
(7) 申し送りノートに書く練習。5W1Hを押さえ、誰が見ても読みやすく。
(8) 記録用のPCに出てくる単語/漢字を読んで理解する学習。
(9) PCやタブレット上での記述式記録の入力訓練
追伸:2019年度の新しい取り組み、ワセダバンドスケール方式で指導
2018年度は日本語能力試験JLPT N3対策講座を無料の教室授業とオンライン学習で実施しました。2019年度はワセダバンドスケール(介護版)方式を採用し、より現場に必要な日本語の指導方法を実地検証することにしました。将来の介護技能実習生の支援に役立てます。(2018/11/23記)